朝には冷気がピンと張りつめ、日中は太陽がその寒さを打ち消すような温かい日差しの冬晴れの日曜日。2022年12月18日に、日本顕微鏡歯科学会第18回シーズンズ(ウィンター)セミナーが開催されました。当日は、会場参加とWeb参加のハイブリット形式で開催され、172名の参加がありました。10名の演者が会場とWebでそれぞれ発表し、コメンテーターの先生方が緊張をほぐすように優しく、丁寧に、適切にアドバイスしてくださいました。
Web発表予定でしたが、急遽神戸から発表のために会場までいらした、きずな歯科の馬庭望先生。その熱意が発表内容にも如実に表れていて、顕微鏡下での下顎臼歯部舌側の減張切開、さらに垂直的な骨造成という知識と技術と勇気がないと挑めないような素晴らしい治療が、多くの患者さんの口腔機能の向上に担っていると実感しました。
インプラントによる失われた機能の回復は、日常臨床の一つとして取り入れられていますが、術後の前歯部の審美的な問題の解決となると、天然歯と異なり難易度が一気に上がります。その解決策として、安斉昌照先生はVISTAテクニックを発表されました。採取した結合組織を、スーチャーボンディングによる縫合糸の固定位置を歯間部にする工夫をされたことで、退縮と歯間乳頭が見事に改善されており、顕微鏡治療の技術に圧巻されました。
誰にでも"初めて"は必ずあります。マイクロデビュー。当学会の皆様はご経験済みかと存じます。田中達啓先生の発表は、まるで自分の過去であるかのように錯覚しながら拝聴していた先生方も多いのではないでしょうか。先生の成長のスピードはとても速く、臨床技術が卓越していて、ダイレクトボンディングが短期間でここまで変化を遂げることができるのかと驚愕しました。先生の努力は、これから導入しようとする先生方の大きな一助となったことはいうまでもありません。
今回唯一の衛生士、根本和華さんの発表は、女性が占める割合が圧倒的に多い歯科衛生士という職業における、マイクロスコープの圧巻の存在意義を見事に表現していました。自身の経験として、妊娠中、徐々に大きくなるお腹で腰を曲げながら診療することがとても苦しく、辛かったこともあり、また、においにも敏感になるというかなり診療に不利な状況だったことを思い出しました。その時代に顕微鏡があればだいぶ違っていたことでしょう。若い女性歯科医師にも希望の持てる、とても印象深い内容でした。
先日のAPMにおいて、英語で発表されていた内容を日本語に翻訳して発表された金子佳史先生。内容もさることながら、動画編集の技術の高さに驚愕し、まるで映画を見ているような感動すら覚えるほどでした。きっと患者さんからの信頼も高く、地域医療に貢献しているのだろうと納得しました。今後、学会発表は金子先生のような編集の内容が増えていくのではないかと期待しています。
Web発表の佐伯真未子先生は、歯根端切除術についての発表でした。コメンテーターの辻本先生から、サイナストラクトの発現の理由と考察、根管充塡時の根尖部の破折の可能性や、内部吸収の原因などのアドバイスがありました。特に、認定試験合格に向けてのキーポイントのご説明が大変勉強になりました。
根管治療において破折ファイルの除去は、その位置、長さ、残存歯質の切削、除去時の偶発症など、術者を悩ませることが多い処置の一つです。梶原瑞貴先生発表のワイヤーループは、超音波による歯質の切削が最小限ですむことや、破折ファイルが長い場合や彎曲が強い根管であっても、比較的容易に、安全に除去することができるツールとして、臨床に導入できれば患者の負担も軽減できるのではないでしょうか。
和田健先生は、MTAセメントを使用した直接覆髄に関しての発表でした。覆髄前に隣在歯の処置を先だって行い、処置の精度を上げ、患歯の予後の経過をよりよくするということが、処置の成功に関与していることや、隔壁を作りマイクロリーケージを予防することなど、歯髄保存の重要性とその難しさについて考えさせられる内容でした。
私、及川は、侵襲性歯頚部外部吸収歯(ICR)の治療と考察、という内容で発表しました。北村和夫先生から、診査診断の際の偏心撮影の重要性についてご教授いただき、今後の臨床に生かしていく所存です。ありがとうございました。
最後に、小栁圭史先生による、垂直破折歯の口腔外接着法についての発表がありました。歯が割れているが、残せるのかみてほしい、という主訴で来院された患者さんがいらしても、結局抜歯になってしまうことが多いのではないでしょうか。しかし顕微鏡を使用し、適切な診断、確実な接着、術者の治療技術により破折歯に対する治療の選択肢が一つ増えることで、歯の保存につながる可能性を大いに感じることができました。今後、治療の予後を含め経過も発表していただけることを期待します。
今回、私を含めた10名の発表から、各先生それぞれ素晴らしい内容であることに以上に、全員の先生が顕微鏡を使用して、一人ひとりの患者さんに真摯に向き合っているということに感銘を受けました。私たちは歯科医療を提供していますが、目の前の患者さんの問題をいかに解決できるのか、そのための知識の習得、技術の研鑽と優れた臨床の質を獲得するために歯科用顕微鏡を使用し、精度のよい治療を心がけることが患者の求める歯科医療の"質"に関係し、信頼関係の構築が可能になります。今後も本大会を含め、各セミナーにより、臨床力をつけることで、一人でも多くの患者さんが幸せになることを期待します。
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