日本顕微鏡歯科学会 第17回 シーズンサマーセミナーが2022年8月7日に開催された。コロナ感染拡大が再び拡大する中でのDoctorbook協力のもと、スタジオと各地リモートからのWEB Live配信形式で行われた。異なる使用経験・立場と様々な視点から10人の演者(歯科医師7人・歯科衛生士2人・歯科助手1人)が発表をおこなった。今回、ウェビナーが当たり前になった時代だからこそ、参加数は180人に及んだ。水川 悟先生の司会進行で、学術担当理事の三橋 晃先生の開会宣言を皮切りに会はスタートした。
現地スタジオからの1人目の演者は、オズ通り歯科の勤務医の小川 明宏先生 "はじめてのモーターライズドマイクロスコープ"の発表である。モーターライズドマイクロスコープで代表的なカールツァイス社の"OPMI PROergo" その特徴的なのはフットコントローラーでズーム・フォーカス調整を操作できることである。その設置位置や周辺機器など臨床スタイルの試行錯誤を発表された。時折りスライドに織り込まれる参考症例は臨床5年目とは思えない技術の高さに驚かされた。
そして、その素晴らしい環境を築き上げたのが2人目の演者がオズ通り歯科の院長でもある有田まき先生 "医院みんなで.let`sマイクロ~チームで取り組むマイクロスコープの意味とは?~"の発表である。院立ち上げから、マイクロスコープとの出会い・導入・スタッフマネージメント等、誰しもが悩み経験する壁をどう乗り越えたかの奮闘記である。個人ではなく、チームでマイクロスコープ導入に取り組み、院全体のモチベーションアップに繋がっていくことは間違いないであろう。
3人目は、私・藤野の"下顎左側第一大臼歯の痛みを伴う患者の診査中に皮下気腫を引き起こした一症例"である。マイクロスコープで診査中に皮下気腫を引き起こした偶発症を、どのような状況下で起こしてしまったかを反省を踏まえて報告した。質疑応答からも、その後の対応・予防対策について議論された。
4人目は、若手歯内療法の勉強会でもご活躍されている北條 弘明先生の"外科的歯内療法"の発表である。文献の報告からもあるようにマイクロスコープを用いた外科的歯内療法のモダンテクニックは成功率を大きくあげ、様々な難症例を外科的歯内療法で対応した症例を発表された。ポジショニング・テクニックや拡大時に何を見るべきかポイントを押さえた外科動画は、擬似体験として学びある素晴らしい内容だった。
前半の最後5人目は、歯科衛生士の道坂 まやさんの"日々のメインテナンスを多角的に行う為に"の発表である。直前の緊張とは裏腹にエネルギー溢れる発表は大変驚かされた。歯科医師と歯科衛生士との関係性についてアンケートをとり、認識の違いを発表された。臨床はチームで行うものであり、一番身近な存在でもある歯科衛生士との関係性を再認識させられた。
休憩を挟み、後半は各地からリモートでの発表である。
6人目は、植村 太一先生"GP除去の効率と安全性を考慮した方法を求めて"の発表である。再根管治療が多い日本では、いつもGP除去には悩まされる。どのようなマテリアルを用いて、安全に効率に除去できるかを根管の上部・中央・根尖に分けて細かく考察され、大変参考になる内容だった。質疑応答では歯内療法の大家でもある澤田 則宏先生からの的確なアドバイスもあり大いに盛りあがった。
7人目は秋月 大先生の"保険治療にマイクロスコープをプラスする"の発表である。マイクロスコープ導入3年目、どう臨床に落とし込んできたかをこれまでの経験を踏まえて発表された。これからマイクロスコープを導入したい・使い始めたばかりの先生にはモチベーションアップのメッセージが沢山込められていた。目的を持って目標を掲げ、ステップアップしていく大切さを改めて感じさせられる発表だった。
8人目と9人目は、樋口歯科医院より歯科衛生士の木村 汐里さんと歯科助手の深江 あゆさんの発表である。まず木村 汐里さんの"歯周病の治療が主訴でない患者さんが治療に積極的になる為の取り組み"を発表された。自覚症状のない検診希望患者にいかにして"う蝕・歯周病"をマイクロスコープを用いて伝えるかを分かりやすくまとめ、歯科衛生士として何ができるかを考え行動し、可能性が広がるのを感じさせた。イラストや説明では伝わりにくい状況を患者自身の口腔内を動画記録し伝えて意識させれるのは、マイクロスコープの"拡大・照明・記録"の3大特徴なくしては不可能である。
続いて深江 あゆさんの"マイクロアシスタントワーク5000時間で見えた勘所"の発表である。2019年の本会での発表よりもさらにブラッシュアップされており、マイクロアシスタントワークの成立には術者目線とアシスト目線、両方から寄り添う姿勢が大切だということが語られ、"1人はみんなの為に みんなは目的の為に"の医院コンセプトに基づく素晴らしい発表であった。映像を通しての情報共有がチームの総合力を上げていく樋口歯科医院の雰囲気がよく伝わってきた。
最後の演者は再びスタジオから、市田 佳子先生による"水酸化カルシウム製剤が根尖孔より下顎管へ溢出した一症例"の発表である。衝撃的な症例に対応した貴重な臨床報告は、マイクロスコープなくしては対応できなかっただろう。優れた器具・機材も使い方一つで人体に毒にもなることを常に念頭に入れなければならないと考えさせられた。是非、経過の第2報が気になるところであり、本会での発表もしていただけたらと思う。
以上10人の演者の発表に質疑応答と盛り上がり、澤田副会長の閉会の挨拶をもって締めくくられた。
今回、本会に引けを取らない内容に歯科医師のみならず、歯科衛生士・歯科助手までも積極的に会を盛り上げ、2023年の第19回福島大会が益々楽しみになった。参加していただいた多くの顕微鏡歯科医療従事者にも充実した1日だっただろう。 |