日本顕微鏡歯科学会 2021年 第16回シーズンズ(ウインター)セミナー

日本顕微鏡歯科学会 第16回シーズンズ(ウィンター)セミナーを視聴して 2021年12月19日、日本顕微鏡歯科学会第16回シーズンズ(ウィンター)セミナーがDoctorbookサイト上でLiveにて行われ、6名の演者(歯科医師5名・歯科衛生士1名)がスタジオSession、4名の歯科医師がリモートSessionという、今の時代に対応したハイブリットな形での開催となりました。
約160名の歯科医師・歯科衛生士が登録する中、理事で進行役の長尾大輔先生のご挨拶を皮切りに、副会長で渉外広報担当理事の三橋 晃先生より、今回のウィンターセミナーは本来の形である会員発表というアナウンスがありました。
続いて、学会長の北村和夫先生より開会の挨拶があり、ウィンターセミナーがスタートしました。

最初の発表は、アウルデンタルクリニックに勤務されている歯科衛生士の竹之内奈美さんによる「マイクロスコープの新しいカタチ 歯科衛生士編」でした。
DH、TCの両方向から歯石の有無の確認や不良補綴の確認をはじめとする患者とのコミュニケーションのみならず、Dr.との情報共有の手段としてもマイクロスコープを活用しているのは素直に感心させられました。


続けて、アウルデンタルクリニックの院長である志田健太郎先生より「マイクロスコープの新しいカタチ 歯科医師編」の発表がありました。すべての治療でマイクロスコープを使用している先生は、コミュニケーションツールとしてのマイクロスコープの活用に力を入れており、歯科医師、歯科衛生士、スタッフ、患者間の情報共有が容易にできるようになったとのことでした。その環境を築いていくことは様々な点で大変なことも多いと思われますが、先生の確固たる信念が実現へと導かれたものと推察されます。
症例(右下5番インレー二次カリエスの処置)においても、マイクロスコープ下の動画と共に、早期発見から治療完了までの流れを拝見することができました。 発表後、ネクスト・デンタルに勤務されている歯科衛生士の林 智恵子さんより、TCとしての勉強はどのようにしたのかという質問に対して、竹之内さんはアシストしながらメモを取ったり、Dr.に確認しながら勉強をしました。
また、マイクロスコープ導入後は説明がよりスムーズになったとの回答もありました。 続いて、認定指導医である櫻井義明先生より、動画ファイルはどのように管理しているのかという質問に対し、先生は患者ごとに管理ソフトを活用しているとのことでした。
また、視聴者からの質問では、メンテナンス時に自院で治療した補綴などのチッピングがあった場合どのように説明するかという内容に対し、術前と現在の状態の画像を見てもらい、良いことも悪いことも真伨に説明するという回答がありました。この点に関しても聴講している方に大きく響いたものがあったのではないでしょうか。


続いて、ヤガサキ歯科医院に勤務されている金子佳史先生による「ワーキングビューを意識することにより、臨床の確実性向上と時間短縮に努めた症例」の発表でした。 今回発表するにあたり、過去の動画を見返していく中で、先生自身のマイクロスコープに対する(特にワーキングビュー)モチベーションの変遷があった点を聞き、同感した視聴者は少なからずいたのではないでしょうか。症例動画(右下7インレー除去から補綴装着まで)では、マイクロスコープを通して目でしっかりと確認しながら行っていくことができており、形成、印象採得、印象確認、試適、装着に至るまでを拝見することができました。先生がいかにワーキングビューを意識しているのかがわかる動画であったかと思います。また、ワーキングビューをはじめ、修復物の設計や窩洞の形態にまで動画編集を通して、自分自身で反省点を理解していたことは素晴らしいことだと思いました。
発表後、理事で認定指導医の吉田 格先生より最終補綴の選択や形成の設計、齲蝕検知液のデリバリーの方法に関してのご指摘がありました。今後の経過と共に経過不良の場合でもぜひ発表してくださいとのこ とでした。


続いて、理事で認定指導医の三橋 純先生より、発表するにあたり動画編集を通して見えてないことがわかることは大切であると、金子先生の反省点に関してもお褒めの言葉を述べておられました。
また、治療後の管理やワーキングビュー、チェッキングビューの拡大倍率に関してもご指導いただきました。視聴者からの質問で「ミラーテクニックの必要性を感じたのはいつ」に対し、ミラーを使わないと歯の全周を見ることができないと三橋 純先生からご指導いただいてからと述べられておりました。


4番目の演者である高橋歯科医院の高橋恒明先生が「マイクロスコープの可能性を広げてみる~テンポラリークラウン編」について発表されました。 先生の元気な挨拶と共に発表がスタートしました。マイクロスコープを用いて歯科診療を行うにあたり、診療姿勢を崩さずに治療ができることの重要性を説いていました。また、テンポラリークラウンの作製にあたり、口腔内・口腔外で行うメリット・デメリットを説明し、時間短縮・隣在歯との連続性を確認できるというメリットから、口腔内でのテンポラリークラウンを作製しているとのことでした。その際、レストポジションやグリップ、アシスタントワークも同じく重要であると解説されていました。実際にマイクロスコープ下で口腔内のテンポラリークラウンを軸面、伵合面、鼓形空伱の順に削合していく様子を動画で拝見できました。 発表後、理事で認定指導医の水川 悟先生より、口腔内でのテンポラリークラウンの削合の煩雑さ、特にゼックリアバーの取り扱いは難しそうであるが、気を付けている点はありますかという質問と、マージン部を拡大視野にて確認できるとなお良いとのご指摘がありました。
高橋先生はレストをしっかり置くことが重要であるとおっしゃっていました。視聴者からも多くの質問が寄せられましたが、時間の関係上、後日個人的にご連絡させていただくことになりました。演題通り、マイクロスコープの可能性について考えさせられる内容でした。

続いて、鎌倉デンタルクリニックに勤務されている関口寛人先生より「フェルールなくても歯根破折を回避する!CRを活用したダイレクトクラウン修復」の発表がありました。
根管処置歯の修復後のトラブルを回避するのに、重要なのがフェルールであると発表の中で説明されており、矯正的伾出や歯冠長延長術によるフェルールの獲得が難しく、ポストコアや抜歯ができない場合にコア部分からコンポジットレジンを立ち上げてクラウンをダイレクトに作製するダイレクトクラウンが有効なこともあると説明していました。
これを施すにあたり、歯根の破折パターンやポストの有無による維持力の有意差についてなど論文ベースでの考察を重ねておられました。 実際の症例動画(左上5番にダイレクトクラウンを行った症例)を見ても、接着に対して細かいケアを行いながら、1つ1つのステップをマイクロスコープで確認し、コンタクト・伵合も確実に得られているダイレクトクラウンには、視聴者も驚いたのではないでしょうか。
現状経過は良好のようですが、今後の予後 もぜひ教えていただきたい症例でありました。まとめの中で、直接法と間接法の選択を行い、フェルール獲得が難しいケースに関しては、歯根破折のリスクを下げる治療方法の一つとしてダイレクトクラウンも選択肢に入ると述べられておりました。また、接着と精度の高い治療を可能にするのはマイクロスコープである点も加えて説明されていました。 発表後、櫻井先生からコンポジットレジンの使い分けについて、三橋 純先生からはマージン部の浸出液、呼気に対する配慮について質問がありました。コンポジットに関しては根管内はデュアルキュア型のレジンを使用しており、滲出液や呼気に対するコントロールはボスミン圧排、ズーなどを用いているとの回答を得ることができました。

前半のSessionが終了し、5分休憩の間、日本顕微鏡歯科学会第18回学術大会・総会のPR動画がWeb上にて公開されました。


後半の部はリモートSessionで、トップバッターは富山県射水市で唯一マイクロスコープを導入されている、やまざき歯科医院の山崎史晃先生が「小臼歯隣接齲蝕のCR充填処置」についてご発表されました。
症例の動画を実際に見ながらの発表であり、右上4番のCR脱離から点状露髄が生じたため部分断髄を行う内容でした。MTAセメントの覆髄や隣接面へのCR充填の手技に至るまで、山崎先生ご自身の疑問点や反省点を聞くことができ、同じ視点で考えることができる症例だったと思いました。先生の新たな技術の習得の出発点であるという考えには大変感銘を受けました。 発表後、三橋 純先生よりウェジェットの挿入位置やカリエスチェックの際のブラインド面、またコンタクトのポイントについてお話があり、今後認定医を目指す歯科医師にとってはヒントになった点が非常に多かったのではないでしょうか。水川先生からはCRの段差の研磨には、EVAチップを使用するのも良いというアドバイスをいただくことができました。


続いての発表は、福岡県の昭和歯科・矯正歯科に勤務されている吉成宏陽先生より「根尖部透過像を有する下顎第一大臼歯にVital pulp therapyを行った1症例」でした。
症例は右下の歯が痛むことを主訴とするもので、術中の動画を交えながらVPTを施術する様子を拝見することができました。また、最終補綴を装着後伵合に対する調整も行いつつ経過を観察しており、VPTのみならず他のファクターにまで考察を重ねているところは素晴らしいと思いました。8ヶ月後においても予後良好であり、今後さらなる経過が気になりました。まとめでは、マイクロスコープにより歯髄の血流の確認ができたことが成功のポイントと考えており、VPTにおいてマイクロスコープは必要不可欠と考えていると述べられておりました。
発表後、理事で副会長の澤田則宏先生より歯髄をどこまで取り除くかの判断基準について質問があり、吉成先生は歯髄の血流、止血の程度、またエアー等で象牙質から離れる様子があるかどうかで判断しているということでした。
澤田先生は患者が若年者であった点も今回のVPTが成功した1つの要因だった可能性もあると述べられておりました。

続いて、三橋 晃先生より歯髄の洗浄や止血時間について質問があり、これらに関しては様々な論文があるのでどれが正しいのか、今後臨床家である我々が検討していくことが重要であるということをおっしゃられておりました。
また、三橋先生自身の臨床でもマイクロスコープを用いることで歯髄の生活力が見えてくるようになったとも述べられており、この分野に関してはマイクロスコープを日常的に使用する私たちも、より理解を深めていくことが必要であると考えさせられました。


続いての発表は、愛媛県のますだ歯科医院に勤務されている佐伯真未子先生による「再根管治療に革命を!ワムキーを使用したメタルコア除去」でした。
従来のコア除去は時間がかかり患者にストレスを与えると先生がおっしゃる通り、歯科医師にとってもコア除去は困難かつ時間のかかる治療の1つであります。以前はマイクロスコープ下にてコアを削る方法でコア除去を行っていたとのことでしたが、自院にあったワムキーを用いればコア除去が容易にできるのではないかと考え実践したところ、時間短縮につながったとのことでした。ワムキーの形状がコア除去に適していたのではないかと考察しておりました。
発表後、澤田先生からダブルドライバーテクニックにて接着コアを除去したことはありますかと質問があり、合着コアに比較して接着コアは取りにくいという点のご指摘がありました。また、水川先生よりワムキーを使用することで破折のリスクが上がるのではないかという質問に対し、超音波を当てる時間の短縮の点と、除去時に真上に持ち上げるように力をかける点から、破折リスクは上がらないのではという考えを示しておりました。


リモートSession最後の演者となった日本歯科大学附属病院勤務の廣瀬 渚先生は「二歯含有病変の診断に苦慮した症例」という演題でのご発表でした。
右上2、3番の歯肉の腫脹等を主訴とする症例であり、即座に診断を下すのは非常に難解であると思いました。先生は原因歯の特定をするにあたり、歯髄診査の選択をシステマティックレビュー・メタアナリシスを交えて考察し、今回は寒冷診の評価を中心に診断を下していました。その後、CT撮影を行いさらに診断の精度を上げ、原因歯を右上2番とし根管処置に入ったとのことでした。
根管治療の様子も動画で拝見することができ、根管内から出血はなく診断が適切であったことも確認できました。処置もマイクロスコープ下で適切に行われており、術後半年経過も良好であるとのことでした。


まとめの中で、歯髄診断として電気診に加えて寒冷診を行ったことが正しい診断に導けたと述べられておりました。発表後に吉田先生より偏心投影によるレントゲン撮影を行えばCT撮影を行わずともわかることがあったかもしれないとご指摘がありました。

続いて、三橋 晃先生からは寒冷診には温度を変化させることで評価することができる点や、システマティックレビュー・メタアナリシスについてのお話がありました。廣瀬先生から今回の失活の理由について、CRの二次カリエスが主な要因であると回答していました。

本日最後の発表者であるデンタルオフィス谷本の谷本幸司先生より「CRシリンジを用いたMTAセメントのデリバリー」について発表がありました。 先生はかねてより、臨床は容易であるという点に着目しており、従来のMTAセメントは練和、デリバリー、充填が煩雑であり、扱いづらいと考えていたとのことでした。MTAセメントの進歩により解決してきた点もあるが、デリバリー器具として良い器材はないかと考えていたところ、CRシリンジシステムを使うことを思いついたとのことでした。シリンジの先端部を細い径のものに変えて、目的のポイントにデリバリーしている動画も拝見したましたが、先生が目指す容易なデリバリーが見事にできていることが確 認できました。
今回、安価な器具と易しい術式でMTAセメントの充填ができる方法を紹介していただき、材料の取り扱いや術式を簡素化することは今後の臨床において重要なことと感銘を受けました。
発表後に櫻井先生、澤田先生よりシリンジ先端部の滅菌はどのようにしているのかの質問があり、ガス滅菌を行い、1回使い切りであると述べられておりました。
また、視聴者からシリンジ内に残留したMTAがもったいないのではないかという質問もありましたが、先生は使い切りで足りなくなることもほとんどない点から、もったいないとは感じていないとのことでした。

10名による発表が無事に終了したのち、日本顕微鏡歯科学会第18回学術大会・総会のPR動画の後、副大会長である櫻井先生より大会の案内がありました。

続いて、澤田先生から閉会のご挨拶があり、長尾先生の締めによりウィンターセミナーは終了となりました。

今 回のセミナーは元々の形である会員発表となり、非常に和やかな雰囲気の中進んでいきました。
今後、認定医や認定衛生士を目指す方にとってもヒントになる内容が要所に散りばめられており、大変参考に なったのではないかと思います。
多くの視聴者が、日本顕微鏡歯科学会は若手からベテランの先生や歯科衛生士などが、マイクロスコープというツールを通して繋がれる学会であることを改めて認識できる良いセミナーになったのではないのでしょうか。

最後にこのような素晴らしいセミナーを開催、準備していただいた実行委員の先生方、指導医の先生方に感謝申し上げます。

(文責:国立t歯科 武内一洋)

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