日本顕微鏡歯科学会 2019年 Summer Seminar
令和元年7月15日、第12回シーズンズ(サマー)セミナーが日本歯科大学生命歯学部九段ホールにて開催された。 連休中の梅雨空にも関わらず、104名という多くの先生が参加された。 今回のセミナーでは、9名の歯科医師および1名の歯科衛生士がそれぞれ20分間の持ち時間の中、活発な議論が交わされた。開会の挨拶ではJAMD渉外広報担当理事の三橋 晃 先生より、令和初のシーズンズセミナーに多くの先生にお集まりいただいたことの感謝の意と、JAMDの認定医試験を受けるためのレギュレーション変更などについての解説がなされた。 ”ざっくばらんな”というより、何となく本大会さながらの緊張感が漂う中、第一演者の藤野先生の講演がスタートする。 他院にて『歯が割れている』や『割れているかもしれない』などで、”抜歯”といわれた患者に対し、マイクロスコープ下の映像をお見せし、患者に現状をご理解頂いた後に処置に入る。これは、顕微鏡歯科医療の原点であると同時に、マイクロスコープを導入している歯科医院であれば、必ず行わなければならないことでもある。患者との情報共有がしっかりできるから、顕微鏡歯科はやめられない。 第二演者は歯科衛生士の酒井さん。彼女がマイクロスコープを自分のものにするまでの努力と苦労、その道のりなどを述べられていた。これまでに的確なアドバイスをくださった院長先生や仲間の大切さを十二分に伝えていた。酒井さんのご苦労は、必ずや今後のJAMD会員の歯科衛生士さん達に大きな影響を与えることだろう。 第三演者は筆者の大学の先輩である中丸先生。自己紹介の際、”東の名門神奈川歯科大学出身”とおっしゃられ、以降発表の後輩達のキーワードとなっていく。分岐部に認められた大きなパーフォレーションに果敢に向き合い、数回のチャレンジによって改善できたことをご報告されていた。しかし同時に、1回ではうまく改善できなかった点について、さまざまな論文と照らし合わせながら、次回以降同様なケースに遭遇した場合に備えられていたことがとても印象的だった。 第四演者は今富先生。『はじめての歯根端切除術~反省点を踏まえて』という演題通り、治療計画から処置中、予後に至るまでのご苦労がひしひしと伝わる良い発表だった。会場からも多くのアドバイスをいただくことができていたので、良きメンターのもと、さらなる飛躍を期待したい。 第五演者は宇土先生。以前彼が当院に見学にいらした際、いくつか症例を見せてもらったことがある。緻密なうえ、目の付け所が良い先生だと思っていた。今回は開業医ならではの小児患者への教育用ツールとしてマイクロスコープを用いる発表、うなずけることがとても多かった。 前半戦最後の演者は関口先生。藤本研修会で培った高精度な補綴物の作製にマイクロスコープを用いる発表に、とても感銘を受けた。筆者は藤本研修会で研鑽を積まれた先生のもとに勤めたことがきっかけで、顕微鏡歯科にのめり込むことになった。駆け出しの頃を思い出し、自然と笑みがこぼれてしまった。 休憩を挟んでの第七演者は昭和大学の高林先生。リバスキラリゼーションのケースをご提示なさっていた。これこそマイクロスコープなしでは成し遂げられない術式である。治癒なのか修復なのか、難しいところではあるのかもしれないが、何より患者さんの大切な歯を守ったということの意義は非常に大きい。 第八演者は内藤先生。裸眼ではサイナストラクトに穴があいているのかどうか、見えづらいこともある。特に他院から流れてきた患者の場合には治癒しかかっているのかどうか、原因歯が異なるのかなど、その判断は難しい。診断用のツールとしてのマイクロスコープの役割を大いに示してくれた。 第九演者は篠田先生。提示された症例は診断もさることながら、どのタイミングで歯内療法・歯周治療の介入が正しいのか非常に迷うケースだと思いながら見ていた。シビアな状態だった歯を5年にわたり保存することができているのも、マイクロスコープ下での精度の高い治療のおかげだろう。 そして、最終演者は北海道の河野先生。上顎洞炎を伴った非常にシビアなケースだった。筆者ならこの症例にいかに対応するか述べさせていただいた。いずれにせよ、マイクロスコープがない時代だったら、議論の余地もない単なる抜歯ケースであろうこの歯を保存できたことは、非常にすばらしい。別な機会にこの歯の予後をご報告いただきたい。 冒頭でも述べたが、本大会さながら緊張感の中、もしかすると本大会以上の盛り上がりをみせた今回のセミナー。すべての演者に共通していたことは、表現力がとても優れていることだった。これは、患者に対するマイクロスコープを用いた説明を、常にわかりやすく丁寧に行っていることの証拠だろう。 マイクロスコープは我々に”人に伝える力”まで自然と身につけさせてくれる。噛めば噛むほど味が出るするめいかのように、使えば使うほど、歯科医療従事者・患者、双方に数えきれないほどの恩恵をもたらしてくれるのがマイクロスコープ。認定医申請のポイントもさることながら、顕微鏡歯科医療を高いレベルで提供していくために、今後もより多くの皆様にシーズンズセミナーを活用していただきたい。 最後にこのようなすばらしいセミナーを開催してくださった、三橋 晃 先生はじめ実行委員の先生には感謝の意を表したい。
(文: 長尾歯科 長尾 大輔)
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